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大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)7372号 判決

原告

小森のぶ

被告

門田隆

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告に対し金七三五万九二四四円、及びこれに対する昭和六二年一二月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告に対し、一五九四万五四八七円、及びこれに対する昭和六二年一二月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

次の交通事故が発生した。

(一) 日時 昭和六二年一二月三〇日 午後〇時三五分ころ

(二) 場所 大阪府守口市八雲東町二丁目二四八番地先交差点(国道一号線、以下、「本件事故現場」という。)

(三) 加害車 普通貨物自動車(登録番号、大阪四三え八六九八号)

右運転者 被告門田隆(以下、「被告隆」という。)

右所有者 被告門田博(以下、「被告博」という。)

(四) 被害車 足踏自転車

右運転者 訴外永谷和子(以下、「亡永谷」という。)

(五) 態様 被告隆は、加害車を運転して本件事故現場を北東から北西に向かつて右折進行中、折から事故現場交差点の北西詰にある横断歩道上を北東から南西に向かつて進行してきた被害車に、自車前部を衝突させ、その衝撃により、被害車及び亡永谷を転倒させた。(以下、「本件事故」という。)

(六) 結果 亡永谷は、本件事故により、脳挫傷及び頭蓋骨骨折等の傷害を負い、昭和六三年一月一日死亡した。

2  責任原因

(一) 被告隆の責任

被告隆は、本件事故現場を、北東から北西方面へ右折するにあたり、同交差点北西詰に横断歩道が設けられていたから、前側方を注視し、状況によつては、その直前で徐行又は一時停止して横断者等との安全を確認すべき注意義務があるのにこれを怠ることにより、事故を惹起したものというべく、従つて、被告隆には、前側方不注視、右折不適当の過失があるから、民法七〇九条に基づき、本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

(二) 被告博の責任

被告博は、本件事故当時、加害車を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下、「自賠法」という。)三条に基づき、本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

3  損害

(一) 訴外亡永谷の損害と相続

(1) 治療費 五二万七〇〇〇円

亡永谷は、本件事故により、脳挫傷及び頭蓋骨骨折等の傷害を受け、事故発生の日である昭和六二年一二月三〇日から死亡の日である昭和六三年一月一日までの三日間、吉川病院に入院し、治療を受けたが、右治療のための費用として合計五二万七〇〇〇円を要した。

(2) 入院雑費 三九〇〇円

前記三日間の入院期間中に一日当たり一三〇〇円、合計三九〇〇円の雑費を要した。

(3) 入院付添費 一万五〇〇〇円

前記三日間の入院期間中に、原告が付添看護した費用は一日当たり五〇〇〇円、合計一万五〇〇〇円が相当である。

(4) 休業損害 一万二〇四二円

亡永谷は、本件事故当時、松尾産業株式会社に勤務して一年間に一四六万五二三一円(日額四〇一四円)の給与収入を得ていたところ、前記三日間の入院期間中休業を余儀なくされたので、その間に一万二〇四二円の休業損害を被つた。

(5) 逸失利益 一一九三万六〇〇五円

亡永谷は、本件事故当時、六〇歳の健康な女子であり、独り暮らしで、前記松尾産業株式会社に勤務して年間一四六万五二三一円の給与収入を得ていた他にも、恩給法に基づく亡夫永谷平造の普通扶助料の支給を受けており、さらに松尾産業株式会社に勤務する以前には松下電器の下請けの会社を経営していたのであるから、平均賃金を上回る収入とその能力を有していたものというべく、従つて、同女の逸失利益の基礎額を、少なくとも年齢別平均給与額表(本表は昭和五九年賃金センサス第一巻第一表産業計によりもとめた企業規模計一〇ないし九九九人・学歴計の年齢階層別平均給与額を一・〇三〇六倍したものをもとに、昭和五八年六月一日以降適用の年齢別平均給与額を改定したものである。)の六〇歳女子平均月額一七万九九〇〇円の収入を得ることができたはずであるところ、同女の生活費は収入の四割とするのが相当であるからこれを控除し、就労可能年数を昭和六一年簡易生命表の六〇歳女子の平均余命二三・六二歳の約半分にあたる一二年としてホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して(その係数は九・二一五)、同女の死亡による逸失利益の現価を計算すると一一九三万六〇〇五円となる。

(算式)

(179,900×12)×(1-0.4)×9.215=11,936,005

(6) 慰謝料 九〇〇万円

本件事故により生命を奪われるにいたつた亡永谷の精神的・肉体的苦痛に対する慰謝料の額としては、九〇〇万円が相当である。

(7) 相続

原告は、亡永谷の子であり、亡永谷には他に相続人がいないので、亡永谷の死亡に伴い前記(1)ないし(6)の損害賠償請求権を相続により取得した。

(二) 原告固有の損害

(1) 葬儀費用 一四〇万円

原告は、亡永谷の葬儀を執り行い、その費用として一四〇万円を支出した。

(2) 慰謝料 九〇〇万円

原告は、亡永谷のただ一人の子であり、母一人子一人であつたから、本件事故によつて最愛の母を失つた原告の失望と悲嘆は多大であり、その精神的苦痛を慰謝するための金額としては、九〇〇万円が相当である。

(3) 弁護士費用 一〇〇万円

原告は、本訴の提起及び追行を弁護士である原告訴訟代理人に委任し、その費用及び報酬として一〇〇万円を支払うことを約した。

4  損害の填補 一六九四万八四六〇円

原告は、被告博から治療費及び葬儀費用として合計一〇三万二六六〇円の支払いを受け、さらに訴外大阪府共済農業協同組合連合会から自賠責保険金一五九一万五八〇〇円の支払いを受けたので、これら合計金額一六九四万八四六〇円を前記各損害に充当した。

5  結論

よつて、原告は被告らに対し、各自、本件交通事故の損害賠償として、一五九四万五四八七円、及びこれに対する本件事故発生の日である昭和六二年一二月三〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)ないし(五)の各事実は認め、同1(六)は不知。

2  同2(一)、(二)の被告らの各責任は認めるが、被告隆の過失の内容及び程度については争う。

3  同3(一)(1)ないし(6)は争うが、(7)は不知。同3(二)はすべて争う。

死亡の場合の逸失利益の算定は、亡永谷の昭和六二年度の年収が一四六万五二三一円なのであるから、右金額を基礎として算出されるべきであつて、平均賃金を採用すべき根拠はなく、生活費控除は単身生活者であつたのであるから五割とすべきであり、就労可能年数は経験則上八年間程度とすべきである。

又、恩給については、一身専属権であつて相続性がないから逸失利益の算定に加えられるべきではない。

慰謝料については、亡永谷の年齢及び相続人が一人しかいないこと等を考えれば、その請求額は過大である。

4  同4の事実は認める。

三  抗弁(過失相殺)

1  本件事故は、被告隆が、加害車を運転して本件事故現場交差点にさしかかつたところ、対面信号が青色を表示していたので、右折の方向指示器を出して減速し、交差点中央付近に一時停止したが、対向車両を何台かやり過ごした後、対面信号が黄色の表示に変わつたので、右折を開始したところ、本件交差点北西詰にある横断歩道の直前に至つてはじめて亡永谷を発見し、急制動措置をとつたが及ばず、右横断歩道のほぼ中央あたりで自車前部を被害車の前輪部に衝突させたものである。亡永谷は自転車に乗つて右横断歩道上を進行してきたものであるから、対面の歩行者用信号に従うべきであるところ、同人の横断していた横断歩道の対面歩行者用信号は、右折車両を流すために早止めになつており、被告隆の対面車両用信号が黄色に変わる以前に赤に変わるようになつているから、被告隆が黄信号で右折開始した場合には亡永谷の対面歩行者用信号は赤信号にならざるをえないものであり、従つて、本件事故の基本的要因は亡永谷の信号無視の過失にあつたというべきであるから、相当大幅な過失相殺がなされるべきである。

亡永谷の従うべき信号が、被告隆と同じ車両用信号に従うもので、同人が信号無視をしたことにならないとしても、同人には前方不注視の過失があつたといわざるを得ないから過失相殺は免れない。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

1  亡永谷に信号無視の事実はない。

信号の表示については、被告隆自身が検察庁の調べで自白している。(乙第一五号証、二丁、問 君が右折発進したときは当然対面青信号ということになるがどうか。答 確かにそのとおりです。)

さらに、訴外塩崎好一は、本件事故現場の交差点で、プロパンガスのボンベを積んだ普通貨物自動車の後に右折のため停車したと繰り返し供述していることからいつても、加害車の直後に塩崎車が停止していたことは間違いなく、塩崎車は前車が右折した後、直進車を通してから右折したが、その際も青信号であつたと供述しているし、同訴外人が目撃した事故状況は事故発生直後なのであるからその信用性は高く、従つて、亡永谷には信号無視の事実は全くないというべきである。

尚、塩崎車は、大日交差点で停止した際、その前方に五ないし六台の車が停止しており、前車に続いて右折し、本件事故現場の交差点まで時速三〇ないし四〇キロメートル位で走行しており、右両交差点間の距離は約三六〇メートルあるので、時速三〇キロメートルとすると、四三・三秒かかり、時速三五キロメートルとすると、三七秒かかり、右折に要する時間を五乃至一〇秒かかるとすると、塩崎車が本件事故現場の交差点に来たときには、対面信号が青色を表示していることは充分ありうることである。

2  また、亡永谷に前方不注視の過失があるとの主張は争う。

本件の衝突地点は、横断歩道上であるともに、ゼブラゾーン上であるから、加害車が小回りをせずに車道上を走行してさえおれば本件事故は発生してないので被告隆の過失は極めて大きく、亡永谷に過失は無い。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1(一)ないし(五)(事故の発生)及び同2(一)(二)(被告らの責任)については、いずれも当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第七号証及び乙第九号証により、亡永谷は、本件事故により、脳挫傷及び頭蓋骨骨折等の傷害を負つて、昭和六三年一月一日に死亡した事実を認めることができる。

二  そこで、損害について判断する。

1  亡永谷の損害と相続

(一)  治療費 五二万七〇〇〇円

成立に争いのない甲第五及び第六号証によれば、亡永谷は、本件事故発生の日である昭和六二年一二月三〇日から同六三年一月一日までの三日間、吉川病院に入院し治療を受けたが、その費用として合計五二万七〇〇〇円を要したことが認められる。

(二)  入院雑費 三九〇〇円

前記三日間の入院期間中一日当たり一三〇〇円の割合による合計三九〇〇円の雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。

(三)  入院付添費 一万三五〇〇円

前掲甲第五号証、及び原告本人尋問の結果並びに同結果により真正に成立したものと認められる甲第一二号証によれば、前記三日間の入院期間中意識不明のため付添看護を要し、その間原告本人が付添看護を行つたことが認められるから、一日当たり四五〇〇円の割合による合計一万三五〇〇円の入院付添費相当の損害を被つたものと認めるのが相当である。

(四)  休業損害 一万二〇四二円

原告本人尋問の結果、及び同結果により真正に成立したものと認められる甲第八及び第九号証によれば、亡永谷は、本件事故当時、松尾産業株式会社に勤務して一年間一四六万五二三一円(日額四〇一四円)の給与収入を得ており、前記三日間の入院期間中休業を余儀なくされ、その間合計一万二〇四二円の休業損害を被つたことが認められる。

(五)  逸失利益 八一〇万一二六二円

前掲甲第八、第九、成立に争いのない甲第一〇の一、二、甲第一一、の各号証、及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、亡永谷は昭和二年九月五日生れで事故当時六〇歳の健康な女子であり、夫平造が昭和四四年に死亡した後、夫の経営する会社を引継ぎ経営してきたが、昭和五一年に原告が短期大学を卒業したので会社経営を辞め、その後、松尾産業株式会社に勤務し事故当時年収一四六万五二三一円の給与収入を得るとともに、亡夫の恩給法に基づく軍人恩給の普通扶助料として年額四〇万三九八三円を得ており、それらをもとに原告から生活費の援助をうけることなく独自に生計を営んでいたこと(右普通扶助料受給権は亡永谷死亡と同時に失権して原告は承継していない)、そして、原告が昭和五六年に結婚し別居して以来単身生活をしていたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実によると、本件事故に遭遇しなければ、亡永谷はなお、昭和六一年簡易生命表に基づく六〇歳女子の平均余命の半分にあたる一二年間就労可能であり、その間毎年少なくとも年間一四六万五二三一円と同額の収入を得ることができるはずであつたと推認することができ、またその間の同女の生活費は、同女の年齢、家族関係、恩給法に基づく普通扶助料が支給されていたこと等の事情を考えれば、収入の四割と認めるのが相当であるから四割を控除することとし、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息をそれぞれ控除して(その係数は九・二一五)、同女の死亡による逸失利益の現価を計算すると八一〇万一二六二円となる。

(算式)

1,465,231×(1-0.4)×9.215=8,101,262

尚、原告は、亡永谷が会社経営をしていたこと及び亡夫の軍人恩給の扶助料の支給を受けてしたことを理由に、年齢別給与額表の六〇歳女子平均賃金程度の収入が得られたはずであると主張するが、亡永谷は、本件事故当時より一一年も前に既に会社経営を辞めているのであるから、これをもつて右平均収入を得られる根拠とすることはなし難く、また、恩給法に基づく扶助料とは、恩給権者たる公務員が死亡したるときにその遺族が受給する恩給であるが、右遺族とは法定相続人であるばかりでなく公務員死亡当時これに依り生計を維持し又はこれと生計を共にしたる者であることを要し(恩給法七二条)、扶助料受給者の順位も未成年の子が成年の子より先であるなど法定相続人の順位には必ずしも従つていないこと(同法七三条)、受給資格の喪失要件として子が婚姻したるときもしくは遺族以外の者の養子となりたるときがあること(同法七六条)、受給権の喪失要件として配偶者が婚姻したるとき又は遺族以外の者の養子となりたるときがあること(同法八〇条)、以上いずれも他に生活を依拠する事由が発生すれば受給資格もしくは受給権が喪失することなど、恩給法の内容及び趣旨を総合して考えると、扶助料は、公務員の遺族たる受給権者本人の生活保障を目的として支給されるものであつて、受給権者の生活費に費消されることを予定しているものと考えられるから、生活費控除割合を定める事情としてのみ考慮するのが相当であるから、右主張は採用しない。

(六) 慰謝料 七〇〇万円

本件事故によつて生命を奪われるにいたつた亡永谷の精神的・肉体的苦痛に対する慰謝料は、七〇〇万円をもつて相当と認める。

(七) 権利の承継

成立に争いのない甲第二ないし第四号証及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は亡永谷の子であり他に相続人がいないことが認められるから、亡永谷の死に伴い前記(一)ないし(六)の損害賠償請求権を相続により承継取得したものと認められる。

2  原告固有の損害

(一)  葬儀費用 一〇〇万円

原告本人尋問の結果、及び同結果により真正に成立したものと認められる甲第一三号証、並びに弁論の全趣旨を総合すれば、亡永谷の葬儀のために一〇〇万円を超える費用を要し、これを原告が負担したことがみとめられるが、そのうちの一〇〇万をもつて相当因果関係にある損害と認める。

(二)  慰謝料 七〇〇万円

原告の母である亡永谷の死亡によつて、原告の受けた精神的苦痛に対する慰謝料は七〇〇万円をもつて相当と認める。

三  過失相殺について判断する。

成立に争いのない乙第一号証の一、二、第二号証、第三号証、第六ないし第八号証、第一〇ないし第一六号証、原告及び被告の各本人尋問の結果、並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められ、これを左右するに足りる証拠はない。

1  本件事故現場交差点の状況は、概略別紙図面に記載のとおり、大日交差点から大阪市内に走る道路(国道一号線、以下、「A道路」という。)と八雲中町に走る道路(以下、「B道路」という。)とが交差する交差点であるところ、本件事故は、別紙図面記載のとおりB道路を北東・南西に横断するために設置された横断歩道上のほぼ中央辺りで、かつ、B道路中央部に設置されたゼブラゾーンとが交差する地点で発生した。

本件交差点は、信号機が設置せられてあり、信号周期は、いずれも一周期一五〇秒で、A道路の車両用信号(以下、「甲信号」という。)は青八四秒、黄三秒、赤・青矢印二〇秒、赤四三秒であり、B道路の歩行者用信号(以下、「乙信号」という。)は青八一秒(うち最後の四秒は青点滅)、赤六九秒であり、乙信号は、右折車両を流すために、甲信号より三秒早く赤になる。即ち、甲信号の最後の青三秒と次の黄三秒のとき、既に、乙信号は赤を表示していることになる。

A道路を、本件交差点より北東方向へ約三六〇メートル進行した地点に、大日交差点があるが同交差点にも信号機が設置せられてあつて、同交差点の信号周期も同様一周期一五〇秒であり、同交差点A道路の車両用信号(以下、「丙信号」という。)の信号周期は、青七三秒、黄三秒、赤・青矢印一五秒、赤五九秒となつている。

そして、右丙信号と甲信号との連動関係は、時差があつて、丙信号が青を表示してから約四六ないし五〇秒後に、甲信号は青を表示する。

本件事故現場の制限速度は、法定速度であり、見通しは前方左右共に良好であつた。

2  被告は、加害車に、プロパンガスボンベ・五〇キロ二本と同・二〇キロ二本とを積んで運転し、摂津市内の得意先三軒へ配達を終え、守口市内の得意先へ残りの五〇キロボンベ一本の配達をするために、時速約四〇キロメートルの速度で走行してきたが、中央環状線から大日交差点の右折車線に入つて直線になつたときに、対面丙信号が青色だつたので信号待ち停止をすることなくそのまま同交差点を右折し、さらに、時速約四〇キロメートルの速度で走行を続けて、本件事故現場交差点にさしかかつたところ(右両交差点間には車の渋滞はなかつた)、対面甲信号が青色だつたので、やはりここでも停止することなくそのまま交差点内に進入し、交差点中央付近で対抗車両が途切れるのを待つために一旦停止したが、ここでおよそ一〇ないし二〇秒位右折待ちした後右折発進し約一三・五メートル進行した地点で、折りから横断歩道上を乙信号に従つて被害車を運転して進行してきた亡永谷を自車前方約三・四メートルの地点に発見したので急ブレーキをかけたが間にあわず、自車は約三・二メートル進行した地点で、前地点より約一・四メートル進行してきた被害車前輪に自車前部を衝突させるに到り、自車は衝突地点より約五・〇メートル進行した地点に停止し、被害車は衝突地点より北西方向へ約五・八メートル亡永谷は同地点より同方向へ約八・三メートル跳ね飛ばされて転倒した。

3  亡永谷は、本件事故発生日の前日に勤務先の仕事が終了し、事故当日は、地主方へ赴き地代の支払いを済ませて帰宅する途中で、本件事故に遭遇したものである。

右認定事実に基づいて、亡永谷に信号無視の事実があつたといえるかどうかについて検討するのに、被告らの主張は、甲信号が黄のときは既に亡永谷の対面する乙信号は赤になつているところ、被告隆は甲信号を黄で右折しているから亡永谷は信号を無視したはずであるというものであつて、被告隆は右主張に副つて黄で右折したと供述し、乙第一二及び第一四号証中にも同旨の記載があるので、右供述及び供述記載が信用できるかどうかについて検討する。

丙信号と甲信号の連動関係は、前認定のとおり、時差があつて、丙信号が青になつて約四六ないし五〇秒後に甲信号が青になる。そこで、右時差を四六秒として計算すると、丙信号が四六秒青が続いたのち、丙信号・甲信号共に青・青になるのが二七秒(丙信号青、七三秒-四六秒)、そのあと丙信号は黄と変わり甲信号のみ青が五七秒(甲信号青、八四秒-二七秒)続くこととなる。

ところで、被告隆が丙信号の青七三秒のうちどの位青が経過したあたりで大日交差点を通過したかは不明であるが、同人が同交差点を青で通過した直後に黄に変わつたとしても、即ち、被告隆にとつて甲信号の残りの青が最短時間になる場合を想定しても、五七秒(最長時間は八四秒)となる。

そして、甲信号と乙信号の連動関係は、乙信号は右折車を流すために甲信号よりも三秒早く赤になることは前認定のとおりであるところ、甲信号の残りの青五七秒のうち最後の三秒については乙信号は赤となるから、甲信号・乙信号共に青・青となる時間は、被告隆が丙信号の青の最終時点で通過してもなお五四秒残つていることになる。(丙信号と甲信号の時差を五〇秒として計算すると四秒増えて、甲信号・乙信号共に青・青となるのは五八秒となる。)

前認定のとおり、大日交差点から本件交差点までの距離は約三六〇メートルであり、その間の加害車の速度は時速約四〇キロメートル(秒速約一一・一一メートル)であることからすると、加害車のその間を走行するのに要した時間は約三二・四〇秒となり、本件交差点で右折待ちした時間は約一〇ないし二〇秒であるから、大日交差点を通過してから本件交差点で右折発進するまでに要した合計時間は約四二・四〇ないし五二・四〇秒となつて、加害車が右折発進までに最長五二・四〇秒要したとしても、まだ甲信号・乙信号が共に青・青となつている最短時間五四秒の範囲内ということになり、このことからいつても、被告隆の黄で右折発進したとの供述及び乙第一二並びに第一四号証の前記供述記載はにわかに信じがたいところである。

さらに加えるに、亡永谷には格別先を急ぐ事情がうかがえないのに、被告隆には得意先へ配達に赴く途中であり、交差点を早回り右折してゼブラゾーンを通過しようとするなど相当急いでいたことがうかがえ、この点からも、被告隆の前供述及び供述記載はにわかに信用することはできず、他に亡永谷の信号無視の事実を認めるに足りる証拠はない。

そして、以上によれば、亡永谷は横断歩道上を対面信号に従つて横断していたことがうかがえ、亡永谷に他の過失があつたことを認めうる証拠も存しないから、被告らの抗弁は理由がない。

四  損害の填補

請求原因4の事実は当事者間に争いがない。

そうすると、原告の前記損害合計額二三六五万七七〇四円から右填補額一六九四万八四六〇円を差し引くと、後記弁護士費用を除いた残損害額は六七〇万九二四四円となる。

五  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告が本訴の提起及び追行を弁護士である原告訴訟代理人に委任し、その費用及び報酬の支払いを約していることが認められるところ本件事案の内容、審理の経過、認容額等に照らすと、原告が被告らに対して、本件事故と相当因果関係にある損害として賠償を求めうる弁護士費用の額は、六五万円と認めるのが相当である。

六  結論

以上のとおりであるから、原告の被告らに対する本訴各請求は、前記六七〇万九二四四円に弁護士費用六五万円を加えた合計金額七三五万九二四四円、及びこれに対する本件事故の発生の日である昭和六二年一二月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 阿部静枝)

(別紙) 図面

〈省略〉

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